例えば星をつかめるとして


「今日は雲のない快晴だったから、星がよく見えるだろうと思って」

空を見上げたままの私に、星野が話しかける。

「ここから星がよく見えることを僕は『知ってた』から。今の君に、星を見て欲しくて、それで誘ったんだ。本当は、この山にはもう欠片はないんだ。最初に僕が集めてあるから」

「……」

それはつまり、欠片探しに付き合って、というのが嘘だったということ。けれどそう明かされても、私は不思議と嫌な気持ちはしなかった。

そのくらい、美しくて──懐かしい、夜空だったから。

星野がここから見る夜空が綺麗だと『知っていた』ように、私もまた、それを知っていた。それどころか、何年か前までは、よくここでこうしていたのだ。

私は、ここから見上げる星空が、大好きだったから。いつしか思い出すこともなくなっていたのだけど。

私を囲む星々は、記憶のものと変わらず、むしろ昔よりも、綺麗に見えた。そう感じられることに、酷くほっとした。

「……君が、なんだか疲れてるように見えたから。余計なお世話、だったかな」

何も言わないまま空を見上げる私に、星野が不安げに聞いてくる。

疲れていた、のだろうか。そうかもしれない、と思った。考えることに、悩むことに、私はきっと疲れていた。