例えば星をつかめるとして


一瞬重なった視線は、星野が前を向いたことですぐに解けた。

眺望を見下ろしながら、星野は続ける。

「落ちたのがこの星で良かった。こんなに素敵なところだなんて、知らなかった」

「……」

心から言っているとわかる星野の声が、耳朶を撫でていく。

私は何も言葉を返せないまま、同じように視線を前に戻した。

素敵なところ、なのだろうか。

星野よりもこの星のことを知っているはずなのに、私はそれを、すんなりと肯定できない。

この星は、美しいばかりでないことを、私は知っている。表面ばかりの平和を繕っているけれど本当は限られた一部の人しか幸せになれはしないことも、遠目では美しいものもよく見ると必ずしもそうとは限らないことも、知っている。

──けれど、確かに、美しいものも、あるのだと思う。星野の瞳は、いとも容易くそれを見つけるのだ。私がいつの間にか忘れていた、それらを。

私は、黙って空の色を眺めた。夕日は刻一刻と沈んでいき、沢山の色で彩られた空も、一瞬で姿を変えていく。

不意に、涙が出そうになった。ああ、確かに、この世界はこんなにも美しい。きっと汚れているのは人間で、汚れてしまったのは、私だ。