例えば星をつかめるとして


夕焼け、なんて久しぶりに見た気がする。ううん、空の色すら、しばらく意識していなかったんじゃないのか。

染め上げられた空の色は、私の持ち合わせている言葉なんかでは表現出来ないくらいに綺麗だった。引き込まれて、しまいそうだった。こんな色を毎日見もしていなかったなんて、すごく勿体ないことだと思った。

「地球には大気があるから、こんなふうに見えるんだよね。僕のいたところからじゃ、どんなに恒星が照らしても、宇宙はいつだって暗かった。水色をしているのも、オレンジ色をしているのも、初めて見た」

そう、しみじみと言う星野の横顔を、こっそりと覗き見る。

深い色を宿す瞳にも、空の不思議な色が映り込んでいた。そして、その全てで、じっと目の前に広がる景色を見つめていた。私よりもずっと、まっすぐと。

不意に、星野がこちらを向いた。視線がぶつかってたじろぐ私に構わず、彼はにこりと微笑む。

ゆっくりと、星野は言った。

「松澤さん、僕、」

その真剣そうな声色に、思わずそちらを見つめ返す。視線をしっかりと合わせたまま、星野の声が人のいない頂上に響いた。



「好きになったかもしれない。君が生まれた、この小さな星のこと」