例えば星をつかめるとして


……冷静になって考えてみると、本当は先ほど、かなり危ない状況だったはずだ。唐突に空まで連れていかれて、私は何も抵抗できなかった。落とされたら、それまでだったはず。

星野が、事情を知っている私のことを始末したいのだったら、あの時が絶好のチャンスだったと思う。ある程度警戒心をなくさせてから、事故死に見せかける、とか。

そう考えると、今自分が立っていられることがにわかに信じられなかった。もちろん、星野にそんな気がなかったから、まだ呼吸をしていられるのだろうけど。

そんな風に考えても、離れよう、と考えない私は、多分星野を、信じている。絆されている。そうじゃなきゃ、わざわざ山に一緒に来たりしない。

昨日学校で初めて会ったときに抱いた、地球征服だとかそんなことをするのではないかという不安のことを忘れ去ったわけではない。けれど、そう囁く疑心暗鬼な私は、すっかりと小さくなっている。

「松澤さん、日が沈みそうだね」

柵まで寄って街を見下ろしながら、星野が私を呼ぶ。

「ほんとだ。飛んでた時は違ったのに、あっという間に」

自転車を止めた私は、傍まで行って同じようにする。

眼下に広がるなじんだ街並みは、西日に照らされてオレンジ色に染まっていた。まだ空の上の方は青く、色の境界がピンクとも紫とも言えない不思議な世界を作り出している。

「こんなの初めて見たなぁ。綺麗だね」

「……うん」

考えるよりも先に、肯定していた。