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およそ十五分ほどの空中散歩を終えて、自転車は星見峠の山頂に着陸した。
「地面だ……」
足の裏が、しっかりと地面と触れ合っている。そのことになんだかとてつもなくほっとした。
空が嫌だったわけではない。けれど、あそこは私には広すぎるから、どんなにちまちまとした歩みでも、地面にいたいと思った。
「楽しかったねぇ。またやりたいね、松澤さん!」
一方、というか、上機嫌の星野に、げんなりとした視線を向ける。こいつ、私がどんだけびびったと思ってるんだ。
「今度は絶対飛ぶ前に言ってよね……」
もう二度としないで、と言うまででもないけれど、でもまた突然やられたら心臓がもたない。こちとら狭々とした地上で、こまごまとした生活しかしてきてない普通の人間なんだってば。
「でも、おかげで早く来れたね!」
星野は相変わらず楽しそうだけど、微妙に会話が噛み合っていない。三十分以上かかるところをこんなに早く来れたのは確か、だけれども。
ああ、と脱力する。それ以上怒ることもせず、仕方ないなと思ってしまう私は、大分星野に甘くなった気がする。多分、また唐突に飛ばれても、同じように道連れにされるんだろう。それでいいのだろうか。私は、星野が何か悪いことをしないかの見張りで一緒にいるのではなかったっけ。


