例えば星をつかめるとして

「松澤さん、大丈夫。絶対、君を落とさないから」

カチコチになっている私を察したのか、星野がゆっくりと、私の名前を呼ぶ。

──不思議なことに、それを聞いた途端、恐怖がちょっとだけ和らいだ。

頬を撫でる風も、空の青も、ようやく感じられるようになる。なるほど確かに、ちょっとだけ心地いい。

「……落ちる時は、星野を下敷きにするからね」

「あははっ。わかったよ」

けれど、素直にそれを告げるのもなんだか悔しかったので、半ば冗談半ば本気でそう言った。星野はまた、楽しそうに笑う。

少し怖いけれど、眼下を見下ろす。いつの間にか街は小さいくらいにまでなっていて、まるで博物館にあるジオラマの模型のようにも見える。

対照的に、空はどこまでも広い。こんなに、どこまでも広かったんだ。しばらく学校の窓から見える、四角い空しか見ていなかった気がする。

「ね、綺麗でしょ」

「……うん」

今度は、素直に頷いた。大きな空の一部になってしまうようで少し怖いけれど、風も景色も、心地よい。

星野が笑う。それも、心地よいと思った。

ちょっとだけ、この時間がもう少し続きますように、と、心の片隅で願った。