けれど彼はすぐにぱっと顔を明るくして、名案とばかりに叫んだ。

「わかった! じゃあ"自転車"に乗っていけばいいんじゃないかな!」

「……なるほど」

確かに自転車に乗っていけば、30分ほどで着くだろう。筋の通った提案に少し驚きつつ、私は素直に頷いた。




「へえ〜、これが"自転車"なんだね」

自転車を出す私の背中に、星野の声がかかる。

どんなものかもわからないのに提案したのか、とちょっとだけ呆れながら、けれど星野らしくて笑いがこぼれた。

久々に出したお母さんと兼用の自転車は、錆び付いていないかと心配だったけれどきちんと動きそうで安心した。ただ、ブレーキは音が鳴るかもしれないけれど。

私の家の敷地から出して、前のカゴに荷物を入れる。それから、星野を振り向いた。

「星野も家に自転車借りに行くよね」

「ううん、山本さんの家に自転車はないよ」

「……へ」

こともなげに言われて、思わず間抜けな声が出た。

「乗り方もわかんないし、松澤さんの後ろに乗るね」

「は!?」

言うが早いか、星野は鞄をリュックのように背負って、自転車の後ろ側にまわり込む。私はそれを呆然と見つめて、それから我に返って口を開いた。