夢が、ないのだ。進学に、何か熱烈な目的があるわけでもない。お母さんは、進学してほしいみたいだけど。

誤字もなく書き終えて、私は立ち上がる。あとは、出すだけだ。吉村と話して何か言われたりしたくないから、入口にいた先生に渡してデスクの上にでも置いておいてもらおうと思った。





* *



「松澤さん、こっち」

職員室に寄った後、昇降口に着いて靴を履き替えようとすると、入口の方から声がかかった。

「星野? ごめん、待っててくれたの?」

顔をあげると、そこで待っていたのは星野で、私は慌てて謝る。先に帰っているかとも思っていたのだけど、考えてみれば律儀な星野のことだ、最後までまってくれるのは想像がついたと反省した。

慌てて外靴に履き替えて駆け寄る。星野は私の顔を見て、小さく首をひねった。

「何か、あったの?」

その声に、こころなしか気遣うような色を感じてしまって、私は焦った。進路希望票のことで頭がいっぱいになっていたのが、顔に出てしまっていたのだろうか。私は慌てて首を振った。

「ううん。ごめんね、ちょっとトイレ行ってたから。待たせちゃった?」

「ううん、待ってないけど……」

そう言って星野はまた、じっと私を見る。見透かされているのかとなんだかいたたまれない気分になったその時、彼が私の手を掴んだ。

「えっ、どうしたの?」

ぎょっとしてそう言うと、へにゃりと笑った星野の顔が返ってきた。

「……松澤さん、欠片探しに行かない?」