「じゃあこれ、僕が出してくるね」
「あ、私が……」
星野がそう言って、日誌に手を伸ばす。私は咄嗟に自分で出すから大丈夫、と言いかけて、はっとした。
脳裏によぎったのは、一枚の紙。
「……ううん、やっぱりお願いしようかな」
一拍おいてそう言った私に、星野は大きく頷いた。
「わかった。じゃあ出してくるね」
そしてさっと立ち上がると、日誌と自分のぶんの荷物を持って教室を出ていく。
パタパタ、という足音が去っていくのを聞きながら、私は小さく息を吐いた。
「……書かなきゃ」
いつまでも見ないふりは出来ない。進路希望票、を。
鞄に手を伸ばし、ファイルからぺらりとそれを取り出す。配られた日から一週間近く入れっぱなしだと言うのに、皮肉なくらい綺麗なままだった。
先ほど吉村がくれた新しい紙は、使わないので捨ててあった。一枚でさえ気が重いのに、二枚目なんて持っていたって意味もない。


