例えば星をつかめるとして


「……松澤さんも、よくわかってないんだね」

黙り込んだ私をしばらく眺めて、星野はぽつりと呟いた。

はっと顔を上げる。彼は何故か、少しほっとしたような顔をしていた。

「よかった。当たり前なことが僕だけわからないんじゃないかと心配してたんだけど、松澤さんもわかってないんだね。なんかちょっと、ほっとした」

「……うん。わからないや。あんまり考えないもん。人間とか、生きるとか」

「僕と違って自分のことなのにね。面白いなあ」

楽しそうに、星野は笑い飛ばす。まるで、わからないことが大したことないというように。

……いや、大したことなんて、ないんだろう。人間は、完璧ではないのだから、わからないことだらけなんだろう。

そう考えたら、少しだけ心が軽くなった、気がした。

「……私には、人間が何かなんてわからないからさ、」

少し考えて、口を開く。

星野が顔を上げる。私たちの視線が、しばし、交差した。

「星野が人間じゃない、とも言いきれないよ」

ちょっとだけ迷いながら、けれど結局告げる。

今、こうして、同じ教室で一緒に日直をやって、そして私に見えていなかったものを見せてくれる。

そんな星野が、絶対に人間ではないと言うのは、なんだか寂しいことのように感じたのだ。