「うーん……種としてはヒト科ヒト亜科ヒト族ヒト亜族ヒト属のホモ・サピエンスと言って、地球上で進化した生物。だから星野は違う。……私には、これくらいしか言えない、かな」
告げた答えは、我ながら驚くほどに定義的で、味気ない。けれどどう頑張っても、それ以上気の利いた答えを用意できそうもなかった。
多分星野が求めている答えではないだろう。自分で答えておきながらそんなことを感じて、ちらりと星野を覗き込むと、意外にも、さして納得した様子るの彼の顔があった。
「なるほど。松澤さんはそう考えるんだね」
うんうん、と頷きながら、星野はそう言う。けれど逆に、私が納得出来ていなかった。
私の考え。私の考えなのだろうか。言われてみると、何か違う気がした。
「……」
けれど他に、何か言えるわけでもない。釈然としない気持ちを抱えながら、私は黙り込んだ。
星野はさらに質問を続ける。
「じゃあさ、『生きている』というのは? どういうものなのかな。僕のいたところにはなかった概念だから、教えて欲しくて」
「……うーん」
また、厄介な質問が来た。私はしばし黙考して、それからいつか生物の授業で先生が言っていたことを思い出した。
「例えば……代謝を行っていて、子孫を残したり増殖したりする能力があって、恒常性を維持できる……とか、そんな感じだったかな」
恒常性、とは、外界の環境が変わってもある程度内界の環境を維持できる能力のことだ。恒常性の破綻を死と定義することもあったはず。
……また、物理的な話になってしまった。星野が聞きたいのは、そういうことではないだろうに。


