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「わあ……動いた……!」

電車内にて。私のすぐ横から、小さい子供のようにはしゃぐ声が聞こえる。

「……ちょっと静かにして。恥ずかしいから」

本当に小さい子なら可愛らしい光景であろうけど、悲しいかな星野の外見は私と変わらぬ高校生のそれだ。電車に乗って動いたとはしゃぐのは流石におかしいだろう。

「え? ご、ごめん。何かおかしかったかな」

「普通、高校生くらいになったら電車が動いたくらいでははしゃがないものなの。乗り慣れてるはずだから」

ひそひそと囁く。星野は神妙な顔をして頷いた。

「そっか。電車というものはとても身近なものなんだね? 隕石と同じくらい?」

「隕石の数十倍は身近だと思うけど」

「そんなに!?」

星野が目を丸くする。驚いているのがありありと伝わってきて、少し微笑ましいと思った。

星野と話してみてわかったこと、それは、彼が思っていたよりも、地球人としての感覚に乏しいことだ。

私の記憶を読み取って、ある程度の知識はある、と言っていた星野だが、本当にその通りなのだ。つまり、知識『だけは』ある、ということ。

言葉と定義は頭の中にある。けれど、それに関しての慣習的な記憶や感覚がないから、そこに齟齬が生じている。

だから少し危なっかしくて、監視云々以前の問題で目が離せないという気分になってしまうのだ。