──澄佳、ごめんね。
──ありがとう。
──澄佳。
大小いくつもの声が、私を包んで周りをめぐっているように、聞こえてくる。
「叶多……?」
もう一度、呼びかけるけれど、返事はない。
叶多が帰ってきたのかと一瞬思ったけれど、これは、違う。多分、叶多が何らかの手段で、私に残したメッセージだ。
言葉は一つ一つ断片的で、テープを巻き戻すように、何度も同じ言葉が聞こえる。『ごめんね』、『ありがとう』、そして、私の名前。
ごめんね、とは、何も言わないで帰ってしまったことに対してだろうか。こんなふうに伝えるんなら、最初から言ってよ。そんな風に思うけれど、でも言ったとして、届いて欲しい人のところに、届かない。
そうしていると、また、ふわり。
下の方から風が巻き起こって、あんなに聴こえていた声が霧散する。やめて、いかないで、そう、思った時。
「……っ!?」
突如、目の前を覆ったのは、何か白いもの。ガサリ、と音がする。
反射的に両手で捕まえる。その瞬間、あんなに巡っていた風が、止んだ。
「え……?」
平穏の戻ってきた室内で、私は、呆然とする。今のは、何だ。何が、起こったんだ。
恐る恐る、先ほどつかんだ紙を見下ろす。そして、息をのんだ。
そこには、少しいびつな字で、『澄佳へ』という宛名、そして、『星野叶多より』という署名が、書かれていた。


