一通り見たあと、足を踏み入れる。まっすぐ、窓に向かった。そこに妙に、惹き付けられた。
窓は古めかしい、棒鍵タイプのものだった。叶多、開け方わかったのかな。もしかしておじいさん呼んだりしたのかも。想像しながら、くるくる回して、引っこ抜く。
ガラ、と開くと、すぐに風が差し込んできた。柔らかい風が、私の頬を撫でる。
ほう、と息を吐く。妙に居心地が良くて、叶多がここで過ごしていたのだと、何よりも感じられた。
その時の、ことだった。
ふわりと、一際強い、けれど優しい風が巻き起こる。それは屋根を駆け上って、部屋の中へと吹き込んできた。
「わ……」
髪が勢いよく巻き上がって、慌ててそれを押さえる。部屋の中は大丈夫かと心配だったけど、何かが倒れた様子はない。私のまわりでだけ、風が踊っているようだった。
なん、だろう。不思議な風だ。けれど不気味だと感じることはなく、温かい。この気配を、私は知っている。これ、は。
「叶多……?」
名前を呼ぶと、答えるように、風に頭をくすぐられる。そして。
──澄佳。
声が、聴こえた。
「叶多……!?」
もうはっきりと、声なんて思い出せなくなっていたはずなのに、それでもわかる。
この声は──叶多のものだ。


