けれど、思い出したと言っても完全ではない様子で、叶多がこの家に居候していたことまでは、思い出している様子はない。それでも、私と一緒に叶多がいたことを、彼らは確かに覚えているようだった。
どうしてなのか、わからない。けれど、自分以外にも叶多のことを覚えている人がいるということは、思っていたよりも、嬉しかった。涙が出てしまいそうで、私は慌ててこらえた。
ああ、ちゃんと、叶多はいるんだ。この温かい人の中に、ちゃんといる。それがわかるだけで、十分だった。写真に残ってなくても、湯のみが消えていても、それだけで十分だった。
「叶多くん、今、どこいるんだい?」
おじいさんが、そう尋ねてくる。私は少しだけ迷って、答えた。
「……叶多は、ちょっと、遠くに行っています」
どうにも、声が震えてしまった。それでも、精一杯答えられたと思う。
「そうなの……それは、残念だね。また、会いたいけれど」
おばあさんが、そう言う。
また、会いたい。その言葉が、私の中にも響く。そして、はっと気付かされた。私も、同じだ。叶多に、会いたいんだ。
「……っ、私も、会いたいです……!」
叶多に会いたいと、そう思っている人が、私だけじゃない。喉の奥に熱いものがこみあげる。けれど、必死に下を向いて、こらえた。


