おじいさんが、突然そんなことを言い出す。咄嗟に意味が理解出来なくて、私はきょとんと聞き返した。
「ああ、あの男の子。色が薄い感じで、なんか綺麗な子だったよねぇ」
おばあさんもそれに同意して、うんうんと頷いている。私は、わけがわから──いや、何が起こっているのか、信じられなかった。
よく一緒にいた男の子? 色素が薄くて、綺麗?
それは、もしかして、叶多のことだろうか? それ以外、考えられない。
でも、どういうことだろう。叶多のことは皆、忘れているんじゃなかったの?
様々な疑問符を飛び交わせながら、私は恐る恐る、口を開いた。
「もしかして、叶多のこと……ですか?」
「──ああ、そう!叶多くん!今日は一緒じゃないのね?」
そして、勢いよく肯定されて、私はいよいよ、自分の目と耳が信じられなくなった。
山本さんは、夫婦そろって「叶多くんだ」「名前が浮かばなかったね」「もうぼけちゃってんのかしら」などと話している。間違いなく、叶多と、そう言っている。
久しぶりに、私以外の口から『叶多』という名前が出るのを聞いた。二人の話の内容も、やっぱり、叶多のことなようである。間違いはない。


