例えば星をつかめるとして


厚意に甘えてすいかを頂くことにして、私はちらりと辺りの様子を窺う。食器棚に入った湯呑みは、二つずつ。洗い場にある食器も、二人分。食卓の写真立てに入る、以前叶多が映っていたいたはずの写真には、夫妻二人だけが写っていた。

──やはり、ここからも、叶多がいた形跡は消えてしまっていた。

「はい、どうぞ」

コトリ、音をたてて、私の前にスイカが置かれる。夏らしい、赤くて瑞々しい、美味しそうなスイカだった。一緒に置かれた塩が、雰囲気を出している。

「いただきます」

塩はかけないことにして、一口かじる。水分を沢山含んだ、独特の甘さが口の中に広がった。塩をかけると甘く感じるとは言うけれど、このままだって充分甘いと思うから私はかけないタイプだ。叶多だったら、どうなんだろう。一緒にスイカを食べたことがないからわからないけど、かけるかもしれない。そんなことを考えると、少し楽しかった。

私が知らない叶多の話を、聞いてみたいと思った。けれど、それは叶わない。山本さんたちも、叶多のことを忘れてしまっているから。

そう、一人で諦めて、黙ったままもう一口掬おうとした時だった。

「そう言えば、よく澄ちゃんと一緒にいた子……なんて言ったっけね。あの子、最近見ないけど、どうしたの?」

「……え?」