「え、でも、」
「ほら、どうぞ」
……その様子に、もちろん変なものは感じられない。
なんで、私の名前を知っているの? 叶多というきっかけがなければ、私のことは知らないのではないだろうか? 色々な疑問を浮かべたまま、それでも私は、素直に従うことにした。
「……それじゃあ、おじゃまします」
「はい、どうぞ」
山本さんのおばあさんは、目元の皺を深くして、嬉しそうに笑った。
通された居間の様子は、以前と大きくは変わらないようだった。前と同じ、暖かい雰囲気に満ちている。
「おお、澄ちゃん。久しぶり。ゆっくりしておいで」
物音を聞きつけたのか、二階から降りてきた山本さんのおじいさんも、にこやかに迎えてくれる。
「スイカ、食べる? 夏だから買ったんだけど、おじいさんと二人だと、食べきれなくて」
そう言って、おばあさんはすいかを出してくれた。叶多がいた時は、叶多が食べていたりしたんだろうか。私が知らない場面を想像して、少しだけ胸が温かくなった。


