そんなことを考えながら歩いていて、ふと足が止まったのは、一つの家の前。
「……?」
なんてことのない、一軒家だ。この先、もう少し進むと自分の家になる、そんな場所。
──妙に、その場所が気になったのだ。
何か、あったっけ……?
首を捻りながら、その家を眺める。二階建ての、こじんまりとした家。青い屋根だ。表札には、「山本」と書いてある。
──山本さんがね、
不意に、耳朶の内側で、誰かの声が蘇る。山本、と、ここに住んでいる人のであろうことを、話している。多分、何気ない会話の一部だ。
……何か、大切なことを忘れてしまってないか。この場所は、何か意味のある場所だったのではないか。
忘れている、大切なこと、と言えば。
「叶多……?」
そう、名前を呼んだ瞬間、はっと色々なことが蘇った。そうだ、ここは、叶多の居候先だ。今聞こえた声も、叶多のものだ。叶多は通りすがっただけなのに、この家の、親戚の子供ということになって、居候していたんだ。


