「……私、今回はパス」

結局、私は視線を逸らして、そう言った。

真理が残念そうな顔をしているのが、気配でわかる。でも、どうしても行く気にはなれなかった。

「澄ちゃん、でも……」

「ごめんね。また明日」

半ば強引に会話を切って、歩き出す。真理を待たずに、さっさと教室を出た。





* *





通い慣れた道を歩いて、電車に乗って、最寄り駅に降りる。その間も、ずっと気分は晴れなかった。

真理に、嫌な思いをさせてしまった。原因は、私に余裕が無いせいで。

叶多がいないように振る舞う真理が嫌だったわけじゃない。本当は、それでも自信をもって叶多がそこにいたと自分を肯定出来ない自分が、嫌だっただけなのに。

記憶が一つ一つなくなっていくそのたびに、私の中の彼という存在への自信すら、消えていく。そのことに、きっと私は、焦っている。

「何やってんだろ……」

誰もいない道で、自己嫌悪の独り言を漏らす。

叶多に、沢山のことを教わったはずなのに、叶多がいなくなってから、私は前よりも嫌な人間になってしまったのはないだろうか。何を、やっているのだろう。