「ねえねえ、夏祭り行かない?」

唐突にそう誘われたのは、夏休みも終わりかけの、ある日のことだった。

「夏祭り?」

聞き返すと、私を誘った張本人である真理は、いつも通り、天真爛漫な笑みを浮かべる。

「そう! この近くであるんだって。澄ちゃん、最近頑張りすぎてない? 息抜きも必要じゃない?」

だから行こう!と、彼女は期待するように、私の答えを待っている。

こう見えて気配りの出来る真理のことだから、心配してくれているのかもしれない。出かけようと誘う裏に私を気遣ってくれている彼女の表情が、脳の裏である人と重なった。

……あいつなら、なんて言ったかな。

一度、そう思ってしまうと、どうしてもその人のことばかり考えてしまう。私は真理から少し目を逸らして、遠い空の方角を見た。

私の中の『叶多』という人に関する記憶は、どんなに足掻いても、薄れることを止められなかった。毎日、思い出しているのに、今はもう、顔すら思い出せない。確かにそこにいたと、大切な人だったと、その思いだけが、変わらずにくすぶり続けているだけで。

虫食いのようにところどころ欠けた叶多像では、今彼がいたら何と言うだろうかなんて、わからなかった。ただ、なんとなく『行きたい』と言い出すような気もして、妙にそれがしっくりきた。多分、叶多なら行きたがったんだろう。宇宙人だから、『宇宙に無いから見てみたい』とか言うのかもしれない。