──戻ったのだ、と思った。突然叶多が学校に現れる前の、私の知っていた学校に、戻っただけなのだ。来た時の唐突さと同じように、突然、叶多は消えてしまった。私を除いた、全てから、存在ごと。
「なんで……何も言ってくれなかったのかな」
ぽつり、空を見上げて呟く。講習の時間だけど、出る気になんてなれなくて、私は自分の町まで戻ってきていた。僅かだけど、叶多が過ごした場所。けれどここにも、やはり何もなかった。
二人で歩いた、人気のない川辺。あの日ぬかるんでいたところに残る足跡は、私のものだけだった。叶多も、一緒に行ったのに、そんな事実はなかったかのように、ぽつりと、私の靴と同じサイズの足跡が浮かび上がっていた。
叶多が居候させてもらっていた山本さんの家も、叶多のワイシャツが干してあった空間が、捨てられたようにぽつんと空いているのが見えて、苦しくなって中に入れてもらわずに離れてきてしまった。あの夫妻も叶多の存在を忘れてしまった様子を、見たくはなかった。
もうどこにも、ない。叶多のいた証拠が、どこにもない。


