例えば星をつかめるとして


「……っ」

慌てて、走り出す。教室を飛び出す時、真理の呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど、気にしなかった。じっとしてなど、いられなかった。

『おやすみ、澄佳。いい夢を』

昨夜の、叶多の声が蘇る。思い出せば思い出すほど、おかしかった。だって、私は『また明日』と言ったのに、叶多は『うん』と頷きはしたものの、明確に答えてはくれなかった。

胸がざわざわする。どうか、気のせいであれと願った。

走って走って、廊下を越えて、階段を登って、目指した場所が見える。勢いよく、扉を開いた。

そこは、私の教室だ。夏休みに入った一週間前と、中の様子は変わらなかった──ただ一つ、机が減っていることを除いて。

「うそ……」

教室の一番左の列の、一番後ろ。私の席の隣に当たるそこに、あるべきもの──叶多の座るはずの席が、跡形も無く、なくなっていた。

机も、椅子も、何も無い。そこに誰かの席があった気配さえ、消えていた。

教卓に置かれたままの座席表を手に取る。迷わずに見たそこの席は、やはり、何も書かれていなかった。

『星野叶多』という人の、存在ごと消えてしまったかのように。