私も慌ててあとを追って、鞄を下ろす。それから、我慢出来ずに聞いた。

「ねえ真理、叶多、見てないよね? まだ来てないのかな」

真理が、顔を上げる。きょとんとした顔をしている。やっぱり、見ていないのだろうか──



「え……?わからないけど、叶多くんって、誰?」



──ところが、真理が口にしたのは、思いもよらぬ言葉で。

叶多くん、って、誰?

頭の中で、反響する。誰? それって、どういうこと? なんで、そんなことを聞くの?

「え……ちょ、暑くてぼけちゃったの? 叶多だよ、星野叶多」

混乱した私は、そう言葉を紡ぐ。

けれど真理は、変わらない表情のまま、言った。

「星の、彼方……? なにそれ、なんかロマンチックな名前だね。だけど、知らないなあ。隣のクラスの人?」

「え……?」

──真理は、何を、言ってるの?

理解が、出来なかった。何が、どうなって彼女はこんなことを言っているのだろう。何かがおかしい。けれど私はそれを理解することを、拒んでいた。