膨張した銀色の塊が、人間に、なった。

「…………」

何か、言わなきゃ。そう思うのに、頭はパンクしたままで、言葉どころか声さえ出てきてくれない。

これは、どういうことだ。

思考が滞る。いや、わかっているのだけど、理解することを放棄している。

今、私の前にいるのは、明らかに人間だ。──そう見える。

全部、私の見間違いなのではないか?……けれどそんな可能性も、彼の姿をいま一度よく見て霧散する。

彼は、空中に浮かび上がっていた。

「うーん、怪我、は、ないみたい?」

私の混乱を余所に、浮遊する少年はほっとしたような声を漏らす。

そうだ、私はさっき、斜面を滑り落ちそうになって……察するに、この宇宙人が空中から私を止めたのだ。

つまり、彼に支えられている私も、今浮かんでいるということ……?

青ざめる私に気付いてなのか、それともたまたまタイミングが良かったのか。私が怪我をしていないことを確認した彼は、その場からさらにふわりと移動する。身を固くする私を余所に、何事もなかったかのように先ほどの広場に着地した。

「ありがとう、それじゃあ」

そしてにこりと微笑むと、何故か私にお礼を言って、くるりと背を向ける。

そのまま広場から姿を消す様子を、私はしばらく呆然と見つめていた。

「……え?」

ようやく、声帯が機能するようになったのは、彼が完全に見えなくなってからだった。