例えば星をつかめるとして


「……うん。だから、諦めようとして、肝心なものまで失っちゃったのかな」

へへ、と、自嘲的な笑いがこぼれた。叶多は何も言わずに、それを見つめている。

「何がしたいのか、わからない。大人になるのは色んな道を狭めていくことなのかもね。私は、自分で狭めてしまったのかもしれないけれど。狭めすぎて、何も見えないの。それなのに、周りは進め進めって言うでしょう。ちょっとね、疲れちゃって」

多分、誰も知らないと思う。私がこんなことで悩んでいることを。

「学校でも家でも、受験受験ってそればっかり。私、まだ何も決めてないのに、それでも、見えなくても、道を進まなきゃ、いけないのかな」

そこまで話して、長い長い溜息をついた。

「……ごめんね、面白くない話を、だらだらと」

飽きずに付き合ってくれた叶多に、礼を言った。多分、さして珍しくもない、ありきたりな、それでも私にとっては大きかった、悩み。

叶多が、黙って私の手を握った。その体温に少しだけ驚くけれど、彼は構わずに、それを上に導く。

「……あれ、見える?」

唐突なその行動に戸惑うけれど、素直に従って、示された方向を見上げた。

そこには。

「あ……星……?」

星見峠から見たものとは比べ物にもならないけれど、くすんだ夜空に、たった一つ、星が確かに瞬いている。