「でも、わかるまで待ってなんてもらえないし、とりあえず近い大学の、入れそうな学部って決めて、勉強しながら考えてはいたんだけど、やっぱりわからなくて……ううん、本当は、考えてなかったんだと思う。無理矢理志望を決めて、勉強だけして、逃げてたんだと、思う」
叶多は、黙って聞いている。わかりにくい説明だろうに、私の言葉を遮ることも、促すこともしない。それが、心地よかった。
「……真理なんかはね、あの子、しっかりしてるんだよ。吹奏楽ずっとやってて、音楽が好きだから音大に進みたいって、自分で全部調べて、遠いんだけど、一人暮らしするつもりなんだって。私ばっかり、あやふやで、それなのに勉強だけしてて、ほんとに意味あるのかな、って、思っちゃって」
これを誰かに話すのは、もしかして初めてなんじゃないかと思った。今まで真理にも親にも先生にも、言えなかったことだから。
「昔は、そんなことなかったんだけどね。夢とか奇跡とか、そんなこと信じてた。でもいつからか、夢ばっかり追いかけたって何もかもが叶うわけじゃないってわかるようになってから、現実見なきゃとかそんなふうに言って、逃げるようになってたの。現実どころか、自分自身さえ見えてないのに」
「……澄佳は、本当は、夢とか奇跡を信じていたいんだね」
初めて、叶多が口を開く。その言葉に少し驚いて、でも少し考えて、その通りだ、と思った。


