「それにしても、大きな街だねえ」

歩きながら、きょろきょろと辺りを見渡して真理が言う。模試の会場である塾への道は大通りから外れているのに、それでも建物の数や高さが段違いだ。『都会』が、ひしひしと感じられた。

「空が、あんまり見えないね」

これは、叶多の言葉。確かに、と私も頭上を見上げる。高いビルに遮られて、気持ちよく晴れているはずの空は切り取られた形でしか見えなかった。

「人も沢山だったもんねえ」

また、真理。その言葉通り、ここまで来るために乗ってきた電車はいつもの数倍は人でごった返していた。今も、通りは外れているのに人も車も、地元よりもずっと多い。

それでも、と思う。どの人も、みんな肩を丸めて、どこか疲れた目をしているように思えて仕方がなかった。そんな様子で、まるで決められた動きを繰り返すように電車に収容され足を動かす姿はいささか不気味だった。

これが、都会なのか。学校のある所よりもずっと大きな駅に降りて、私たちは洗礼を受けながら、会場までの道を急いだ。



* *



チャイムと共に、会場全体がざわつき始める。各所で筆記用具をしまう音や、伸びをする人の姿が現れる。

「筆記用具を持っている人、置いてください」

試験官の声に、はっとしてシャーペンを置いた。心臓が、まだばくばくと鳴っている。