例えば星をつかめるとして


「……『蛍プロジェクト?』」

貼られた一枚のポスターの題字を、読み上げる。町内会とどこかの研究チームと民間の有志で立ち上げた、蛍の住めるくらいに綺麗な川を復活させるという取り組みらしい。

そんなものがあった、とは、知らなかった。ポスターを見る限りでは、十年前くらいから始まっていたらしいのだけど。

「……昔蛍がいたこの川は、そのあと上流の木々が大量に伐採されたことや排水が原因で、かなり水質が悪くなってしまったんだって」

叶多が、静かに喋り出す。

「だから、蛍を戻す以前に、そんなに綺麗な川になるなんて、絶対にありえない、起こるはずがないと思われていたそうなんだ。でも、ここまで回復した。僕達が入ったこの川、すごく綺麗だったよね?」

叶多の言葉に、今一度川を見る。確かに、浅いとはいえ底が見えるくらいに、綺麗な川だ。

「『こんなに回復するとは思わなかった、まるで奇跡だ』って、貴明さんは言ってた」

「……!」

"奇跡"という言葉に、思わず息を詰まらせる。叶多は、まっすぐこちらを見ていた。

「澄佳は前に、奇跡なんて起こらないと言っていたよね。そんなものに縋るのは馬鹿馬鹿しい、と。でも、奇跡のようなことは、起こっているんだよ」