「やらないぞ」


突然、思わぬ声が聞こえてきて。

皆が驚いてそちらを振り返ると、そこには。

『あ、朝霧』

いつの間に家に入って来ていたのか、朝霧がドアの前に立っていた。


「まあ、坊ちゃま。いつの間に…。お帰りなさいませ。旦那さまも先程帰られたばかりですのよ」

「伊織くん、おかえり。久しぶりだね」

二人の笑顔に迎えられて朝霧は「ただいま」と、いつものように澄ました様子で靴を脱いでいたが、ふと足を止めると。

「…父さんも、おかえりなさい」

そう付け足すように言って小さく頭を下げた。


(…へぇ。お父さんに対しては案外素直だったりするのかな?)


表情はいつもの真顔だが、きちんと頭を下げて挨拶している朝霧に感心しながら実琴がその足元へと近寄って行くと、朝霧は自然な動作でその身を抱え上げてくれる。

そんな様子を面白そうに見ていた父親は、ニヤニヤと口許に笑みを浮かべた。

「そのコ、伊織くんが拾って来たんだってね。随分可愛がってるみたいじゃない。どういう経緯で飼うことになったんだい?そこら辺の話、詳しく聞きたいなぁ」

興味津々な様子で言った。

朝霧は、そんな父親をチラリと一瞥すると。

「…別に。父さんが期待するようなことは何もないですよ」

とだけ返すと、いかにも面倒くさそうに横を向いた。


(あ…あれっ?)


どうやら朝霧の無愛想は父親の前でも変わらないらしい。