実は今日、知ってしまったのだ。

朝霧の母親は既に亡くなっているという悲しい事実を。


千代は普段一人のところ、今日は傍に実琴がいることが嬉しかったようで、猫である実琴を話し相手に様々なことを教えてくれた。

その中で、朝霧の母親のことにも少し触れたのだ。


「坊ちゃまのお母さまは、本当にお綺麗でお優しい方でね。そして生き物をとても大切になさる方だったの。きっとあなたみたいな可愛い子猫ちゃんを見つけて来た日には大喜びでお世話してくださったでしょうね」

そう、当時を懐かしむように話していた千代。

そんな母親がいたからこそ、小さな頃の朝霧は捨て猫や捨て犬をよく見つけては連れ帰っていたのだという。

そうして母親とともに動物たちをお世話する朝霧はとても嬉しそうだったとか。

ただ、彼女は朝霧が小学校へ入学した頃に体調を崩し、暫くの間床に臥せ、そのまま帰らぬ人となってしまったのだそうだ。


(見かけによらず朝霧、苦労してるんだな…)

学校にいる朝霧を見ている限りでは知りようもない、思わぬ内事情を知ってしまった。…そんな感じだった。

千代の話では、とても明るくて無邪気だった朝霧の笑顔があまり見られなくなったのは、母を失った傷が大きかったのだろうということだった。

(そりゃあ…色々あるよね。お母さんを失ってしまったら…)

その辛さは自分には計り知れないものだと思った。