「………」

改まって指摘され、朝霧が何となく返答に困っていると。

千代は朝霧の内心を全て見透かしたように、にっこりと優しい微笑みを浮かべた。

「可愛い鈴。ご主人さまに付けて貰ったのねぇ?良かったわね、猫ちゃん。これからも、よろしくね」

そう言って子猫の首元の鈴を指で軽くつついた。

チリリ…と鈴が鳴る。


(まったく…。千代さんには敵わないな…)

朝霧は、それ以上何も言わなかった。





実琴は朝霧の部屋の窓台の上に座ると、昨夜と同じように外を眺めていた。

夕暮れに染まる町。

徐々に周囲は薄暗くなり、家々の明かりが目立ち始めている。


(…結局、ここに戻ってきちゃったな…)


本当なら自分の家まで帰ってみるつもりだった。

でも朝霧に助けられたあの後、自分は不覚にも眠り続けてしまい、気が付いたら既に放課後だったのだ。

(うう…ずっと寝こけてたなんて情けない…)

でも、この身体は思っていたよりも、やはり疲れやすいみたいだ。

小さな子猫なのだから体力がないのは仕方のないことなのかも知れないけれど。


朝からこの家を出て学校に行き着くまでに掛かった時間を考えると、学校から自分の家までの方が断然距離もある為、実際にあの後歩いて向かったとしても、いつ辿り着くか分かったものではない。

それに、何よりこの身では思わぬ危険が沢山あるということを知ってしまった。