「まぁっ!猫ちゃんっ!?」

目をキラキラさせている千代に、朝霧はポケットから子猫を取り出すと、そっと渡してやった。

千代は両手の中に子猫を受け取ると「良かった、本当に良かった」と心から安心した様子を見せて子猫を撫でていて、朝霧は何だか少し申し訳ない気持ちになった。


「でも、いったいどういうことですの?伊織坊ちゃま、まさか学校へ猫ちゃんを連れて行ったのでございますか?」

暫くして落ち着いてきたところで不思議に思ったのか、千代が複雑そうな表情で聞いて来た。

「まさか。偶然、外で見つけたんですよ。それをまた拾ってきただけです」

何でもないことのように朝霧は言った。

まさか『学校でカラスに襲われてた』なんてことを千代に言った日には、また大騒ぎになり兼ねないので、そこは黙っておく。

「そうでございましたか。何しろ怪我もなく無事で良かったですわ。それでなくても大切なお預かりものですのに…」

『預かりもの』という言葉に「ああ…」と、朝霧は思い出したというように口を開いた。

「そのことだけど…。実は、そいつ野良だったみたいなんだ」

「え?」

「知り合いの猫だと思ってたんだけど違った。ただの野良ネコだ」

「…まぁ」

千代は驚いたように手の中の子猫を見つめていた。…が。

「でも、じゃあこの子は今後も伊織坊ちゃまがお世話してさしあげるということでよろしいのですよね?」