バスが到着すると同時に人々は早々に乗り込んでゆき、朝霧もまた同様に車内へと入って行く。

『待って!』


(今こんな所で置いていかれたら迷子になっちゃう!)


慌てて必死に駆け出すが、誰かがそんな実琴に気付く筈もなく。

たとえ気付いたとしても、バスが子猫を待ってくれる筈もなく。

バスは乗客を乗せると、すぐに発車してしまった。


(あああーっ!待ってよーっ!!)


実琴が何とか通りまで走り出て来る頃には、バスは既に遠い向こうの交差点を曲がって行く所だった。

『はぁ…。行っちゃった…』

バスの曲がって行った方向を呆然と見つめる。



実琴が通りの端でぽつんと立ち尽くしていると、通りすがりの女学生二人が「わ!カワイイ!」などと足を止めて、手を伸ばしてきた。

戸惑ってる内に半ば強引に頭を撫でられ思わず首をすくめたが、でも何だか悪い気はしない。

(知らない子たちに何だか慰めて貰っちゃった感じ…。まぁ、クヨクヨしてても仕方ないよね)

手を振って離れていくその二人を見送って、ふとその先に見えたバスの停留所に視線を止めた。

(そうだ。バス停の路線図を見れば、ここがどの辺か分かるかも…)

例え子猫の姿になろうとも文字を読むことは出来るのだから。


実琴は気を取り直すと、バス停の看板へと近付いて行った。