「ね、キミ!今、女の子が木から落ちたよねっ?」

主事が同意を求めるように慌てて振り返った。

「遠目なのでハッキリとは分かりませんが、多分…」

そう見えた。

だが、落ちた女生徒が起き上がる気配がなかったので、慌てた主事と現場へ向かうことにする。

はっきり言って面倒ごとに巻き込まれるのは御免だったが、見ぬ振りするのは好きじゃない。


(学校内の植木に登るなんて、いったい何処の非常識だ)

そう思っていたのだが。

行ってみると意外なことに、それは見たことのある奴だった。


(辻原…か?)


気を失っているのか、ピクリとも動かない。

とりあえず呼吸をしていることだけ確認すると、主事に救急車を呼ぶように伝えた。



(それにしても、何で木登りなんか…)

コイツが変わり者なのは知っているが。


辻原とは一年の時から同じクラスだった。

クラスが一緒でも話したことのない奴が多くいる中で、辻原は割と話しをする方の部類に入るだろう。

特に女子などは俺が怖いのか、遠巻きに見ているだけでそうそう話し掛けて来る者などいない。

たまに空気の読めない輩が、先程のように告白などしてくることはあったが、同級生はほぼ俺の本質を知ったからか、最近では一定の距離を置いているような感じだった。

だが、辻原は違う。

コイツは、どんなに俺が不機嫌さを表に出していても平気で話し掛けて来るのだ。