(今日は、朝霧の意外な一面ばかりを見ちゃったよね…)

こんな風に朝霧のプライベートな部分を傍で見ることになるなんて、思ってもみなかった。

それも面と向かってではなく、自分はこんな子猫の中にいて。

(殆ど覗き見状態だよね…。バレたら怒られそう…)

どれ程の冷たい否定と嫌悪の言葉を浴びせられることになるか。

(今までの比じゃない…。想像もできないほどの毒舌だよ。きっと…)


嫌われてることなんか別に分かってるし、今更どう思われようとも構わない。

でも…。

(騙し討ちみたいで…本当は、こんなのは嫌だな…)

朝霧の『子猫』に対しての好意を、自分が踏みにじってしまっているようで。


実琴は小さく息を吐くと、その場にうずくまるようにした。

再び眠気が襲って来る。

子猫の身体は思いのほか疲れやすいのかも知れない。

実琴は睡魔に誘われるままに、ゆっくりと目を閉じた。


(…どうしていいか、ぜんぜん…分からないよ)




それから数十分が経過した頃。

薄暗い部屋の中、一つの黒い影がゆらりと動いた。

影は窓際で眠っている子猫に気付くと、ゆっくりと音を立てずに傍へと歩み寄った。

そうして、そっと…起こさぬように両手で子猫をすくい上げると、その腕に優しく抱きかかえた。




(なん…だろ…?あったかい…)


ふわふわ…幸せな温かさに包まれて。

実琴は深い眠りへと落ちていった。