すると、次の瞬間。不意にその女性と実琴の目が合った。

途端にその女性は「まぁ!」と声を上げると、目を丸くして近付いて来る。

「まぁ!まぁっ!まぁっっ!!」

手の中の子猫を覗き込んでくる女性に、朝霧は少しだけ嫌そうな表情を浮かべた。

(あー…こんな綺麗なお屋敷だし、やっぱり『捨てて来なさい』って追い出されるパターン…かな?)

実琴は耳を垂れて小さく縮こまった。


ありがちな話だとは思う。

(でも『捨てて来なさい』って怒られてしまう朝霧っていうのも、普段の様子から想像つかなくて面白かったりするけど…)


だが、実際の女性の反応は実琴の予想とは違ったものだった。

「まぁ、なんて可愛いらしい子猫ちゃんなんでしょう!」

その年配女性は、しわしわの瞼の下から覗く瞳をキラキラさせて、嬉しそうに自らの両手を合わせると言った。

「伊織坊ちゃまが動物を拾って来るなんて、もう何年振りのことでしょうかねっ。以前はよく捨て猫や捨て犬なんかを拾ってきていましたのに、最近は全然そんなこともなくなってしまって…。ばあやは寂しささえ感じておりましたのですよ?」

子猫に喜ぶというよりは、子猫を連れ帰って来た朝霧に喜んでいるようなその女性に。

朝霧は小さく溜息をついた。