「『元に戻った時にも、やって貰う』…と言った筈だが」

「…っ!?」

ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる朝霧に、実琴は瞬時に何のことを言われているのか理解して頬を赤く染めた。

「あっ…あれはっ」

慌てて後ずさる実琴に、朝霧も同時に距離を詰めてくる。

「元に戻る為に必死だっただけ、か?子猫の時は出来ても元に戻った今は出来ないと?」

「そっそんなこと言ってない!…そんなんじゃない、けど…っ…」


気が付けば、既に背は壁へと触れる程に追い詰められていて。

そこへ朝霧が距離を詰めてくることで、とうとう逃げ場を失ってしまった。


「あっ…あさぎりっ…」

「………」


気恥ずかしさと照れとでわたわたしている実琴とは対照的に、朝霧の表情からは笑みが消え、再び無表情なものへと変化していた。


(そんな目で…見ないで欲しい…)

無表情の中にも、普段学校で見せている朝霧とは違う熱っぽさみたいなものが含まれているのを感じる。

真っ直ぐに見下ろしてくる、その瞳に心を掴まれているような気分になる。

実琴は己の中の恥ずかしさと闘いながらも思いきって聞いてみた。


「そ、そんなに…して欲しい…の?」


(私、なんかに…?)

そう続く言葉を実琴は己の内に飲み込んだ。

どうしても、そこを疑問に思ってしまうのだから仕方ない。


だが、そんな実琴の言葉に朝霧はフッ…と表情を和らげると「ああ」と小さく頷いた。