「お前、やっぱり可愛いな…」

『…へっ?』

クスッ…と抑えきれずに零れるその笑顔を至近距離で見てしまい、実琴はカーーーッと頬を染めた。(見た目には分からなかったが…)

「猫になっても見てて面白いし。もう俺は、この際どっちでも良い」

肩を竦めて、まるでお手上げだと言わんばかりに朝霧が溜息を吐いた。

『ちょっ…ちょっと待ってよ朝霧っ!そんなこと言わないでっ』


(朝霧に開き直られちゃったら、私は誰に救いを求めれば良いの?)


実琴はわたわたと朝霧の手の中で慌てた。

『朝霧だけが頼りなんだよっ?私は朝霧の隣にミコではなく、辻原実琴としていたいよっ』


必死に訴える。

だが、そんな猫の言葉が通じる筈もなく。

朝霧はじっ…とその様子を見つめているだけだった。


『朝霧…』


泣きそうになりながらも、必死に名を呼ぶ。


『あさぎり…』


手を伸ばせば届きそうな位置に朝霧の顔がある。

実琴はその身を僅かに伸ばして顔を寄せると、朝霧の唇へとそっとキスをした。





朝霧は思わぬ実琴の行動に驚き固まっていた。



本当は少しだけ揶揄ってやるだけのつもりだった。

実琴の慌てた様子が面白くて、可愛くて。

だが、哀しげな瞳を見せた実琴に流石にやり過ぎたか…と思ったその時だった。

こいつが思わぬ行動に出たのは。


「お前…。何のプレイだよ、これは…」


子猫の姿でされても複雑なところだ。

だが、彼女に置き換えて考えてみれば悪くない。


朝霧は必死に見上げて来る子猫の頭を優しく撫でると、笑顔を浮かべた。


「それ…元に戻った時にも、やって貰うからな?覚悟しておけよ」





その後…。

朝霧の協力もあり、実琴は何とか元に戻ることが出来たのであった。