『あ…あの、あさぎり…?』

実琴が口にした彼の名は、やはり自分が言おうとしていた発音とは違うものになっていた。

(あああああッ…決定的じゃんっ!!)

ある意味懐かしい、その感覚。

(いやいや、ホントに嬉しくないからっ!)


己の中でツッコミ入れまくりの実琴を、朝霧はじっ…と見つめながら傍まで来ると、その身を両手にすくって取り上げた。

朝霧の手のぬくもりが伝わって来て、実琴は泣きそうになる。

「お前…もしかして、辻原…?」

朝霧は手の中の子猫に躊躇なく話し掛けた。

『あさぎりー…』

問い掛けに応えるように「みー」と鳴くそれ。

途端に朝霧は脱力した。見るからに、がっくりと肩を落としている。

「お前…何で…」

『分からないよ…。ルナちゃんにチュッって触れただけなのに…』

そんなことで、また中身が入れ替わってしまうなんて思ってもみなかったのだ。

うるうるしながら説明するも、朝霧は「何言ってるのか分かんねぇし」と呟いた。

「だが、お前が辻原だっていうのは俺には判る。…ったく、また猫に戻るなんてどうなってるんだ…」

『朝霧…』


すぐに自分の異変に気付いてくれた。それが何より嬉しい。

じーーん…としている実琴を他所に、だが朝霧は容赦なく言った。


「もう、お前このままでいろ」

『ふぇっ?』

(今、何て…?)

実琴は我が耳を疑った。

固まっている子猫の様子に、朝霧はフッ…と満足げに笑みを浮かべた。