カワイイ子猫のつくり方

その頃…。


実琴は病室と同じ階にある、あの屋上へと来ていた。

屋上へ続く廊下には昨日と同様に『関係者以外立ち入り禁止』の札があったが、特に見なかったことにする。

(もし怒られた時は、まぁ…謝れば大丈夫だよね)

だって、どうしても見たくなったのだ。ここからの景色が。

何より自分の身体で。この目で。


実琴は、ふわりと吹き抜ける風に髪をなびかせながら目前に広がる景色に目を細めた。

そこから見える景色は、子猫の時とは全然違うものだった。

病院を取り囲むように植えられた緑。そして病院自体が僅かに高台にあるらしく、木々の向こうには多くの家々の屋根が、まるで敷き詰められているかのように見える。

子猫の時は目線が低かったので殆ど空しか見えなかったというのに。

(見える世界って、こんなにも違うんだ…)

何だか感慨深くて、じーん…と目頭が熱くなる。


子猫の時は、あまりに空が高く感じていた。

そして「自分はここにいるのだ」と伝える術を持たない、とてもとても小さな存在でしかなくて。

こうして元に戻れた今となっては、何だか全てが夢だったのではないかと思えてしまう程だ。


元に戻れて良かった。それは本当にそう思う。

でも…。


何だろう…。

ぽっかりと穴が開いてしまったような、この気持ち。


(朝霧の家は、どっちの方向になるんだろう…)

ぐるりと周囲を見渡しながら、そんなことを思った。