(な、に…?)

視界が急に高くなり、慌てて周囲を見渡したところで、やっと自分が朝霧に抱えられているのだということを実琴は理解した。

朝霧は傘のシャフト部分を首元に挟んだまま、両手で優しくすくうように実琴を持ち上げると、片手に抱えてゆっくりと歩きだした。


『ちょっ…何?いったい何処へ連れてくつもりっ!?』


無表情の朝霧からは何も読み取れなくて、実琴は焦った。

いくら冷徹な朝霧でも保健所にまっしぐら…だなんてことはないと思うけど。

…って言うか、流石にその選択肢はどんな状況であっても絶対に許されないでしょう!

朝霧に限っても流石にそれはないと思いたい。

そう思いつつも、半ばパニックに陥っていた実琴は、朝霧の手の中でわたわたと動き出した。

すると。

「おい、暴れると落とすぞ。別に置いていく分には構わないんだ。だが、お前みたいなチビは速攻カラス達の餌食になるだろうがな」

小さなため息と共に、その頭上から降ってきた思わぬ言葉に、実琴はピタリ…と動きを止めた。

確かにこの辺りには、カラスが多い。

この小さな子猫の身では標的にされるのは時間の問題だろう。

(でも、それって…守ってくれるってこと?…なのかな?)

意外にも猫好きだったりするのだろうか。


実琴は、とりあえず大人しく朝霧について行くことにした。