だが、そんな実琴の心の中に微かに声が響いてくる。


『こわいよ。たすけて。こわいよ…』


『………っ!』

それは昼間と同じ、恐怖に怯える子猫の心の叫びに違いなかった。

当たり前だ。こんな風に訳も分からず声も動きも無理やり封じられて怖くない筈がない。


そんなつもりじゃない。

怖がらせたくなんかないのに…。


『ネコちゃんっ!』

実琴は、いてもたってもいられなくなり、朝霧の腕の中からジャンプをするように勢いよく飛び出した。

床へと打ち付けた身体が痛んで悲鳴を上げたけれど、何よりその切ない程に救いを求める声に瞬時に身体が反応していた。

実琴は上手い具合に押さえ込まれている子猫の肩へと飛び乗ると、必死にしがみついて声を掛けた。

『ごめんねっネコちゃん!大丈夫だよっ!私達は、あなたを虐めるつもりなんかないんだよっ。あなたを助けたいのっ』

そう呼び掛けても、パニック状態の子猫には届かない。

『大丈夫だよっ』

実琴は無性に哀しくなって、しがみつきながらも俯くと自らの額をその肩に押し付けて念じるように言った。

『大丈夫だから…』
 
すると…。

「………っ」

ハッとするように動きが止まる。


『怖くないから…』


あなたが樹の上で怯えていた時と同じように、私はあなたを助けに来たんだよ。

(あの時は私がうっかり風に煽られて落ちて…。逆にこんなことになっちゃったけど)

それが、そもそものはじまり…だったね。


子猫がそれに応えるように小さく『みゃあ…』と鳴いた気がした。


『大丈夫だよ。今、助けるからね』