悲観的になっている実琴とは裏腹に。

目の前の子猫が実琴であることなど知る由もない朝霧は、感心したようにその小さな存在を見つめていた。


「お前、もしかして…辻原の所に行きたかったのか?」


必死に救急車に乗り込もうとしていた様子を朝霧は、ずっと遠目に見ていた。

生まれて間もない程にあどけない容姿をしているわりに、思いのほか俊敏な動きで必死に彼女の傍を離れまいと食らい付いているように見えた。

その必死さは尋常ではない。

最初は彼女の飼い猫なのかとも思ったが、こんなに小さな子猫を放課後まで何処かに隠しておくというのは考え難いのではないか。

それならば、あの必死さは何なのか。

その、目の前の子猫の行動に興味を引かれた。


それに、今こちらを僅かに振り返りながらも、雨に濡れて小さく縮こまっているその後ろ姿は妙に悲哀に満ちていて。

猫らしからぬ、その感情の揺れが手に取るように伝わって来て、朝霧は不思議な感覚でそれを見つめていた。


そして、自分でも無意識のうちに行動に出ていた。




(…えっ?)


見上げていた朝霧の顔が僅かに近付いてきたと思った瞬間、ふわり…と温かなものに包まれ、実琴は驚き固まった。