自分(の身体)を乗せた救急車は行ってしまった。


遠のいていくサイレンの音を聞きながら、

「みゃあーーん…」

実琴は、切な気な鳴き声をあげた。


小さな子猫の身体になっているからだろうか。

降り注ぐ雨粒が痛い程に大きく感じる。

叩きつけるような雨に、だが身動きすることも出来ず、ただただ雨に打たれて途方に暮れた。


(どうしよう…。これから私、どうすれば良いのかな…?)


もうサイレンの音すら聞こえなくなってしまった救急車。それが走り去っていった方向を呆然と眺めながら実琴はその場に座り込むと、その小さな肩を落とした。


すると、不意にすぐ後ろから声が聞こえてきた。


「お前、チビ猫のくせにスゲーな…」


もう、誰もいないと思ってたのに。

ゆっくりと声のした後方を振り返ると。

そこには傘をさして自分を見下ろしている朝霧がいた。


『朝霧…』


そう呟いたアイツの名前も、今の自分からは「みぃ…」としか発せられない。

背の高い朝霧は、猫である今の自分とは違い、遥かに高い所に顔があった。

身長差から見れば当然のことなのだが、その…いつもの冷たい瞳が相まって、何だかものすごく上から見下ろされている気分だ。


(何よ。あんた、私を笑ってるの?)


悲しくなって、泣きそうだった。

いつもの憎まれ口さえも出て来ない。

どのみち、語れる口もないのだけれど。