「あさぎり…」


辻原は、まるで俺がそこに居たのを最初から知っていたかのように、振り返り際その名を口にした。

そんな辻原の様子に、何故だか分からないが『これはもしかしたら夢なのかも知れない』と自分の中で確信めいたものが存在していることに気付く。

病院で見てきた辻原の姿が、強烈に俺の中に焼き付いているからなのかも知れない。


(でも、今回は声が…聞こえるんだな…)


前回見た夢を思い出して、変に感心する。

そう。考えてみれば、辻原は先日も夢に出てきたばかりだ。

こうも夢の中での彼女の出現率が高いのは、それだけ自分が気になっている…という表れなのか。


(…だとしたら、単純だな。俺も…)


思わず皮肉めいた笑みが浮かぶ。



振り向いた彼女は、静かに涙を零していた。

声も出さず、ただ小さく肩を震わせて。

夢の中なのだから現実とは関係なく、ある意味何でもありなのだろうが、俺は今までコイツの泣き顔は一度も見たことはなかった。

その時々でころころと変わる表情は、見ていて飽きない程に豊かではあるが、どちらかと言うと笑顔の印象が強いのに。


(…なのに何で泣いてるんだ?)



――泣き顔なんかより、俺はお前の笑顔が見たい。



柄でもないが、そんなことが頭をよぎる。


「どうしたんだ…?」

声を掛けると、辻原は濡れた瞳のまま真っ直ぐにこちらに視線を合わせてきた。