その時。

不意に朝霧が身じろぎした。


『わっ…』


実琴は驚き慌てて添えていた手を離すと、咄嗟に後方へと跳び退いた。

だが、その瞬間。


カタカタカタ…


足元に何か不思議な感触がした。

「にゃっ!?」


(ヤバいっ!)


瞬時に自分の立っている場所がパソコンの上だと知ると、実琴は慌ててそこから跳び下りた。

不思議な感触の正体はキーボードだったのだ。

(やだっ…!壊れてないかなっ??)

慌ててキーボードの状態とディスプレイを確認する。

子猫の身は軽いからか、特にキーボードに負荷は掛かっていなかったようで破損などは見当たらなかった。

暫く放置されていたのか、今までスリープ状態だったそれはキーを押されたことで動き出し、小さなモーター音と共に画面上には検索サイトのページが表示される。

(あああ、余計な文字打っちゃってる…)

検索バーには、足で押してしまった意味のない文字が並んでいた。

(よし。消して証拠隠滅を…っと)

多少パソコンは使えるのだ。

実琴は、そっと前足を伸ばすと打ち込まれた文字を消しに掛かる。

流石に人の手でスラスラと打つようにはいかないけれど、何とかボタンを押せそうだ。

だが…。


(あれ…?)


文字を消しながら、ふと…大事なことに気付く。

(そうだ…。パソコンを使えば、この身体でも朝霧に言葉を伝えることが出来るんじゃ…?)