ただ、会いたかっただけか?

(…飼い主でもない辻原に?)

会って、どうする?

(助けて貰った恩返しでもするつもりか?)

助けて貰った恩を返す為、動物がその人物の元へと訪れる話は昔話などでは幾つも伝えられている。

だが、既に発想が突拍子もないものになっていることに朝霧は気付くと、苦笑を浮かべた。


「…全然、解らん」


机に頬杖をつき、再び溜息をついた。

それでも、コイツにとっては重要な何かがあるのだろうということだけは分かる。

(あんなに必死になって…。お前いったい、どうしたいんだよ?)

その小さなふわふわした耳元を指先でそっと撫でた。

くすぐったかったのか、ミコは目は覚まさないものの耳をぴくぴくと動かしていて、その様子に思わず笑みがこぼれる。



(それにしても…)


朝霧は病院で見た実琴の様子も気になっていた。

(辻原があんな風に暴れるなんてな…)

家族や職員の手を振り切って取り乱していたその様子は、普段穏やかな彼女からは到底考えられないことだ。

(親父は興奮状態だったかも…なんて言っていたが、そんな症例あったりするのか?)

朝霧は机の奥に置いてあったノートパソコンを傍へと引き寄せると、それを開いて起動した。

頭を強く打った上で言葉が出て来ないともなれば、重い脳機能障害などが疑われる。

(…冗談じゃない)

朝霧は検索ページを立ち上げると、カタカタと文字を打ち込み始めた。