その場は、暴れる辻原を取り押さえる医師や看護師たちで大変な状況だった。

そこに今度は子猫までが乱入なんてしようものなら、もっと騒ぎが大きくなり、収拾がつかなくなることなどは目に見えている。

それに、何よりミコ自身の取り乱しようは半端ではなく、とてもじゃないがその場に留まっていられるような状態ではなかったのだ。


「みゃあっ!にゃあっ!」

(馬鹿、出るなッ。今は駄目だっ)


珍しく自制が効かず、ポケットから身体を乗り出すようにして飛び出して行こうとするミコを慌てて押さえつけると、朝霧はすぐさま逆方向へと足早に歩き出した。

周囲には騒ぎを聞きつけ、人が徐々に集まって来ていたし、そのままその場にいればミコのことがバレるのも時間の問題だっただろうから。

だが、その場から離れていく間にも、ポケットの中でいつまでも切なげに声を上げているミコの鳴き声に。

「くそッ」

朝霧は自分でも何に対してだか分からない、小さな苛立ちを覚えるのだった。

それでも、小さな子猫の鳴き声はその騒ぎの中で掻き消されてしまったのか、誰に気付かれることもなく無事にその場を後にした。



静かに眠るミコを見下ろしながら、朝霧は小さく息をついた。

(やはりコイツが辻原に会いに行ったのは間違いなかったみたいだな。だが…実際、コイツは何をしたかったんだ?)

無事に病院の外へ出た後も、ミコはまだ何かを一生懸命に訴えているようだった。