屋上には緩やかな風が吹き抜けていく。

実琴は、ふわふわの毛をなびかせながら扉の陰で小さく溜息を吐いた。

先程までいた清掃員の年配女性たちも既に建物内へと戻って行き、今は他に誰もいない。


(また、ひとりになっちゃったな…)


霊という、思わぬ存在に話し掛けられ最初は驚いたけれど。

あんなに人と会話したのは久し振りだったので、何だか前より余計に寂しさが増してしまった気がする。


実際、それは仕方のないことだと思う。

普段なら学校へ行けば、友人たちと他愛の無い話で盛り上がり。

家に帰れば、食事をしながらの家族との団らん。

こんなに人と会話をしない日々なんて、今までなかったと言っていい位なのだ。


『あーあ…』

実琴は空を見上げた。


本当なら…。

このすぐ近く、病室に居るであろう母と武瑠に今すぐにでも会いに行って、事情を説明して協力を仰ぎたい。助けを求めたい。

でも…。

この風貌で出て行っても、それは叶わないから。


言葉も伝わらないし、何より病院内が大変な騒ぎになるのは目に見えている。

(朝霧のおじさんに、これ以上迷惑掛けたくないし、ね…)

それに、何より…。

(お母さん、動物嫌いだしなぁ)

普通に目の前に出て行った時点でアウト。大騒ぎの末、追い出されるのがオチだろう。


『はぁ…。本当に、どうすれば良いんだろう?』

すぐそこに自分の身体があるというのに…。